青春のジレンマ
当時中学生だった男子生徒と、ゆっくり話をする機会がありました。
彼が落ち込んでいる様子だったので、彼のお母さんと連絡をとり、レッスンの後に話を聞いてみました。
優しい彼のジレンマはこうでした。
相手の意見を大切にしようと自分の意見をひっこめると、『ほら、やっぱり俺が正しかった』と言われ、意図していない結果が降ってくる。もう何もうまくいかない。
小さな出来事が積み重なっていて、このジレンマを最後に、彼はもう涙をこらえることができなくなっていました。当時彼はよく、将来が見えないと言っていました。
『理想と現実は違う』
彼のこの言葉にひっくり返ったのは私です。
現実に人生があって、理想が見える。そこの乖離をなくすために、あれこれ行動しながら人生を前進させていく。本気でそう思っていた私は、思わず彼に聞き直しました。
『理想は理想、現実は現実。』彼はそう考えていました。お互いの、全く逆の考え方にえー!と驚き、彼の涙はまだ乾いてはいませんでしたが、二人で一緒に笑いました。
そっかー、そういう考え方もあるのかー。その時に初めて、私は世の中にはそういう考え方で人生を送っている人がいるのだと知りました。すでに40歳も過ぎて、子育てもしていたというのに。
彼の考え方がそれから変わったわけでもなく、その後も優しい彼のまま、最終的に彼はやりたいことをみつけ、そのために今は大学に通っています。
当時、彼のお母さんにそのことを話すと『私に似てネガティブなんです。』とおっしゃりました。彼も彼のお母さんも、明るくフレンドリーで、そんな印象はまったくありません。
彼には妹がいて、彼女はあまり自分を出さないところがあり、口数も少なく、そういう意味では彼女の方がそういった印象を与える要素をもっていました。でも、レッスンでの彼女の発言やライティングから推測すると、彼女はポジティブな考え方なのだ、ということがなんとなくわかりました。
彼女のお母さんは『そうなんです。彼女は前向きな人間で、私にはわからないことが多いんですよ。』と教えてくれました。
彼女も5歳からSweet As Englishに通ってくれ、中学を卒業するのと同時に、Sweet As Englishも卒業しました。最後のレッスンでは毎年、中学3年生から後輩に向けてメッセージをもらいます。彼女の前に、ある男子生徒が言いました。
『ぼくは2年生になるまで大した成績が取れなくて、あのままだったらA高校に行くしかなかったけど、最後の2年間をがんばったので、B高校に行くことができるようになりました。みんなもがんばってください。』
私は様子を見守りました。彼女はA高校に行くのです。彼は、努力が結ばれる旨を伝えたかったのだと思いますが、彼女を傷つけたのではないかと、私ははらはらしました。でも、次にメッセージをくれた彼女はこう言いました。
『私は勉強をがんばれなかったのでA高校に行きます。中学では部活で友達をつくったり、そういうことも楽しんでください。』
感情を揺さぶられた様子は見せませんでした。
数年が経ち、今度は彼女の弟が卒業する際に、前述した彼女のお兄さんと一緒に、お母さんとお教室にあいさつに来てくれました。彼女には大きな夢がありました。その夢を叶えることはなかなか難しそうでしたが、彼女は今もそれに向けて行動しているようです。
これで彼女に会うのは最後かもしれない、というような思いで、私は彼女の肩を撫でながら伝えました。
『あなたが、後輩たちに最後のメッセージをくれた時のことをよく覚えているよ。あなたは本当に素敵なハートを持っている。』
彼女があの日のことを覚えていたかは分かりませんが、何も言わずに涙を流しました。
みんなの良いところをわかってくれる人が、みんなのそばにたくさんいてくれますように。親戚のおばちゃんのような気持ちで、心からそう願っています。
